肥満の子どもたちから見える社会

済生会横浜市東部病院
小児肝臓消化器科
乾あやの

 当科は、小児の肝臓・消化器疾患に特化した診療を行っており、肝疾患に関しては肥満による脂肪肝を診る機会が圧倒的に多い。その中で様々な社会の歪みを感じる。

 ひとつは、「貧困」である。肥満の子どもたちの問診をすると、養育者(片親の場合や祖父母が養育していることも多い)が必死に生活のために長時間労働し、そのために規則正しい食生活を含めた生活ができていない。また、新鮮な生野菜など子供たちが食すべき食材が高騰し、安価なジャンクフードしか手に入らない現状が見えてくる。

 もう一つは、「画一」である。肥満の子どもたちの中には、不登校を合併している場合も見受けられる。不登校の原因として、「適応障害」や「発達障害」と診断されていることがある。

 私は、約30年前から肥満による脂肪肝を診察してきたが、卒後5年をすぎたころは、子どもたちを入院させて一緒に運動し、病院から通学させて(当時はこのような環境があった)標準体重まで減量させるために本人を𠮟咤激励していた。この間約6か月、やっと目標達成し、退院させるとあっという間に元の体重にもどってしまうと、本人を外来で自己満足的にまた𠮟咤激励していた。子どもたちは、ふてくされてそのうち受診しなくなった。この苦い経験から、当科では看護師、管理栄養士、チャイルドライフスペシャリスト、理学療法士、臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカーなどが参加して「肥満解消プログラム」を立ち上げた。そして、「肥満解消プログラム」は、子どもたちの輝かしい未来を描きたいというスタッフからの要望で「ヘルシーチャレンジプログラム」と命名された。

 ヘルシーチャレンジプログラムの特徴は、1.1週間の入院、2.自宅での生活スケジュール表を本人ならびに養育者に記載してもらい、3.万歩計を持参して院内での歩数を可視化し、4.入院した子どもの理想的な食事の提供し、5.自宅で可能な毎日の運動プログラムの提供し、6.自宅でどの部分で生活スケジュールであれば、変更が可能かを参加スタッフと患家で検討し、7.退院時に提示する、という流れになっている。

 このプログラムで見えてきたものは、「適応障害」や「発達障害」で児童精神科やこころの診療科に通院し、カウンセリングさらには投薬を受けていた子どもが、その原因は学校、家庭環境や家族関係の軋轢によるものがあることであった。そして、参加スタッフがその環境を受けとめ、キーパーソンとなるスタッフができることから介入した結果、児童精神科やこころの診療科を卒業し、社会に参画できるようになったという場面を複数例で経験した。

 子どもたちは、無限の可能性を秘めている。今、「多様性―ダイバーシティ」が声高に叫ばれているが、本来この多様性は、伸びしろのある子どもたちに最大限に適用されるべきと思う。我々小児に携わる医療スタッフがさらに連携を深めて、子どもたちの「多様性」をサポートしていくことを切に願う。

 なお、この原稿は横浜市小児科医会ニュース No.66 令和5年5月1日発行に掲載されました。