なぜ、今、移行期医療なのか? (続編)
-成人になってからヘルスリタラシーは遅すぎる-

藤澤 知雄

 
前回は慢性肝疾患の移行期医療の現状を述べましたが、今回は移行期医療をスムーズに行うためには何が必要なのかを考えてみます。

私は現在、済生会横浜市東部病院小児科と東邦大学大森病院小児科において専門外来(小児肝臓)を続けています。私が本格的に小児の肝臓病診療をはじめて40年になりますので、思春期や成人になった多くの患者さんも診ています。

とくに思春期の患者さんを診ていて痛感することは、彼らが自分の病気の理解しないまま、保護者に連れてこられ、何となく通院している方が多いことです。彼らは進学、就職、一人暮らし、結婚などを契機に怠薬やドロップアウトすることが少なくありません。

久しぶりに外来に来たら病気が著しく悪化していた、などはしばしば経験します。こうした事態を避けるためには日常の健康管理の主体を保護者や医療者から徐々に患者自身に移してく必要があります。患者さんへの健康管理教育です。これを最近では患者のヘルスリタラシーと呼びます。

この患者ヘルスリタラシーはきわめて重要です。そのためには子どもが一定の年齢に達するの待って病気の説明をするのではなく、初診時から、その時の年齢の理解度に応じて行うことが望ましいといわれます。また、患者の発達段階に応じて、医療者や親が健康管理の責任の一部を患者自身に譲渡し、診断や治療の意思決定に参加していく必要があります。

親は慢性の持病を有するわが子を守らなければならないという意識から、どちらかというと過保護・過干渉となることが多く、こうした子どもの成長にとまどう親や家族に対して、医療者は適切に支援することが大切です。

この点に関しては移行期医療の先駆的な米国では、2011年に各関連学会の共同声明を出していますが、すべての若年成人について成人12~14歳という早期から移行プログラムを開始すべきだとしています。この声明を受けて米国母子保健局は6つのコア要素(6 core elements)を提示しています。これを簡単に記載しますが、成人診療科への移行=転科とあいます。

1.移行ポリシー
成人診療科への移行方法を作成し、12~14歳ころに患児・家族に伝えます。またすべてのスタッフに実践的なアプローチを教育します。

2.移行期の追跡と監視
まず、移行期医療の対象となる患者を登録します。患者レジストリーです。

3.移行準備
14歳ころから実際にチェックリストを使用し、患者や家族とセルフケアに関する目標を作ります。

4.移行計画
定期的にチェックリストを用いて評価し、目標を確認します。また移行サマリーや緊急時のケアプランを作成します。そして成人診療科への移行時期を検討します。

5.転科
患者の状態が安定している時期に転科します。転科に必要な書類(チェックリスト、転科サマリー、緊急時の対応計画、診療情報提供書など)を準備します。成人診療科側ではチームを準備し、初回受診時に情報の更新をします。

6.転科終了
転科後も半年間は、患者と家族に接触して、状況の確認する。成人診療側では、患児に必要なサポートや各診療科の連携を行う。

この6つのコア要素はすでに有効性は報告され、日本でも移行期医療の発展のために参考する価値はあると思う。しかし、実臨床では患者を取り巻く環境はきわめて複雑である。以下の図に患者のヘルスリタラシーを阻害する複雑な要因を示しました。これらのヘルスリタラシーを阻害する要因を一つずつ解除しなければなりません。

移行期医療、とくに患者へのヘルスリタラシーは成人になった患者の健康を守るために予防医学の観点からも非常に大切である。患者自身による健康管理が最も良いことは当然ですが、多忙な実臨床の中でヘルスリタラシーをするのは、時間もマンパワーも十分でないと感じる医療従事者は多いのでないでしょうか? 

必要なマンパワーの確保につながる診療報酬などのインセンティブの確立が必要と思います。また効率よく移行期医療を充実するためには、医師、看護師、薬剤師、CLS(Child life specialist)、保育士、心理士、ケースワーカー、事務職など患者を核としたチームを作ること、各分野のガイドラインを知ること、研究会や患者会などを通じて、適切なカウンターパートナーを見つけることが大切だと思います。