子どもの自己免疫性肝炎について

NPO法人日本小児肝臓研究所 理事長 藤澤知雄

私たちは偶然の機会にトランスアミナーゼ値が異常であることをChance LFD(liver function disorder)という造語を使っています。偶然の機会に血液検査で肝機能異常が見つかることです。

小児科の一般診療や救急外来において、血液・生化学的をする機会は増えており、多くの施設において血算・生化学的検査のスクリーニング項目にAST、ALTなどの肝機能検査を取り入れています。

このChance LFDの多くは上気道炎や急性胃腸炎などの急性期疾患でみられることがあるが、LFDが持続することは多くはありません。6か月以上にわたりLFDが持続する場合は、過食性の肥満児であれば脂肪肝のことが多いですが、なかには銅の代謝異常であるWilson病や自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis: AIHと略します)などがあります。

今日は小児期のAIHについてお話ししたいと思います。AIHは中年以降の女性に好発し、多くは慢性(6か月以上持続する)かつ進行性に肝障害を来す疾患ですが、小児期のAIHはいかなる年齢でも男女を問わず発症します。欧米では小児例の多くが18歳までに発症し、最も頻度が高いのが思春期前であるといわれ、その約75%は女児例といわれていますが、わが国では小児のAIHでは明らかに性差はみとめられません。

AIHの発症メカニズムについては不明な点が多いですが、何らかの遺伝的要素に加え、感染、薬剤投与など、何らかのきっかけがあるとされています。

小児においては急性肝炎様に発症する症例が多いことを反映し、黄疸が40%以上の発症例にみられます。この点に関して、ヨーロッパの調査においても、40-50%は倦怠感、嘔気、食欲不振、腹痛などの非特異的症状に続き黄疸、褐色尿、白色便などの急性肝炎様の症状で発症されると報告されています。さらにAIHの中には劇症肝炎として発症する症例があるという報告もあります。

わが国の小児のAIHに関する全国調査でも14%が劇症肝炎として発症しています。また前述したChance LFDで見つかるAIHも30%以上にあります。トランスアミナーゼ異常は増悪、改善することはあるが、全く正常になることは少なく、多くは、緩徐ではあるが増悪します。

トランスアミナーゼの異常以外に臨床症状からAIHを疑うことは困難です。さらにAIHと原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:以下PSCと略します)と鑑別が容易ではありません。PSCは潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis: UC)の合併が多いので、下痢、血便などの症状があればPSCの可能性があります。さらにAIHとPSCの合併例(オーバーラップ)があるので、複雑です。

さてAIHの診断ですが、臨床的、生化学的、免疫学的、肝生検による肝組織学的の特徴の組み合わせにより診断しています。重要な点は肝炎ウイルス感染症、ウイルソン病、薬剤性肝障害、シトリン欠損症、脂肪肝、血液疾患などを除外することである。

最も重要な点はAIHでみられる自己抗体には抗核抗体(ANA)、高平滑筋抗体(SMA)、抗肝腎ミクロソーム-1抗体(LKM-1)、などがあり、ANA and/or SAMのAIH1型とLKM-1単独陽性のAIH2型に大別されますが、わが国ではAIH2型はほとんどありません。海外ではAIH2型は急性肝不全例が多いとされています。

2008年に国際自己免疫性肝炎グループから発表された簡易診断基準は自己抗体、血清IgG値、肝組織、ウイルス肝炎の否定の4項目のスコア化し迅速に診断することを目的に作成されていますが、小児ではPSCもAIHと診断されてしまうという欠陥を有しており、1999年改訂のスコアリングを用いるべきでしょう。AIHとPSCの鑑別には内視鏡検査的逆行性胆管膵管(ERCP)などの直接胆道造影が必要になります。

AIHの典型的な組織所見はinterface hepatitisといわれる慢性活動性肝炎像である。すなわち門脈域にはリンパ球と形質細胞による高度な炎症細胞の浸潤と限界板を超えて周囲の実質に浸潤します。また小葉中心領域(中心静脈周囲)には肝細胞の脱落がみられる。この所見は急性肝不全型のAIHではより顕著である。小葉間胆管周囲の観察も重要であり、とくに胆管周囲の層状の線維化があるか否かの判定はPSCとの鑑別に重要である。軽症例にはウルソデオキシコール酸単独で加療される場合もありますが、小児ではこのような軽症例は少ないです。

小児期発症のAIHでは長期のステロイド薬投与による成長障害、骨粗しょう症、中心性肥満などの副作用を回避するために、m-PSLとアザチオプリン(AZP)の併用療法が推奨されております。詳細はこのガイドラインを参照してください。

急性肝不全例にはシクロスポリンAの持続静注と血漿交換を併用します。小児では重症のAIHでも元気であり、最も信頼できるのは直接ビリルビンの高値であり、トランスアミナーゼ異常とビリルビン値が10mg/dl以上であれば専門施設への移送が必要である。

AIHと同様に自己免疫性肝疾患としてPSCがある。小児のPSCは自己抗体が陽性となることが多く、AIHに類似した血液検査所見を呈することがある。治療方針や予後はAIHと異なるので、鑑別が重要である。最も大事な点は胆管病変の有無をMR胆管膵管撮影(MRCP)やERCPで評価することです。

私たちはAIHを疑われた小児例はERCPを行いPSCの要素があるか否かを検討しています。しかし、一般の外来ではこのような検査は困難であり、小児肝臓専門医との連携で診療することが望ましいと思います。