済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 顧問
NPO法人 日本小児肝臓研究所 理事長
藤澤知雄

肝臓は巨大な生化学工場であり、生命維持、成長にとても大事な臓器です。慢性肝不全は6か月以上持続する重症な肝機能異常を伴う症候群です。子どもは常に成長発達をしているので、成人とは異なる食事指導をしなければなりません。食事を摂ることは小児にとっても大切な生活の質(QOL)です。ですから、正しく子どもの栄養状態を知り、たんぱく質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をどのように摂るのかを決めます。

慢性的な肝臓病の子どもは成長発育に対して危機的な状況に陥ることがあります。今回は栄養状態を正確に知り、食事指導をどのようにすべきか考えてみます。

Ⅰ慢性肝不全とは
肝臓は高い予備能と強い再生能力を有しております。たとえば肝臓の70~80%を切除しても、残った正常の肝細胞が新しい細胞を作り肝臓を再生するといわれています。肝不全とは肝臓のはたらきが病的に低下して肝臓の役目が果たせなくなる状態であり、慢性肝不全は多くは肝硬変です。子どもの肝臓病で問題になる肝硬変は胆道閉鎖症、原発性硬化性胆管炎、ウイルソン病などです。胆道閉鎖症はなるべく早く診断して、肝硬変にならないように手術をします。しかし、手術をしても肝硬変になることもあります。原発性硬化性胆管炎とは原因不明の胆管炎で、大腸の炎症を高率に伴います。ウイルソン病は先天性の銅代謝異常症で肝細胞に銅が沈着して肝硬変になりますが、早期診断と治療で経過の良い子どもが増加しています。

Ⅱ慢性肝疾患による栄養障害
肝臓は栄養代謝の中心臓器なので、各種の肝疾患では栄養代謝に様々な影響を与えます。この時にみられる症状としては食欲不振、全身倦怠感、嘔気などがあります。このような症状があると食事の摂取量が減り、ますます栄養障害が目立ってきます。
子どもの慢性肝疾患でみられる栄養障害は正常の肝細胞が減少してしまうこと、肝臓が固くなり、肝内の血流の循環が悪くなります。また肝硬変では胆汁の流れも悪くなり、小腸からの吸収障害による脂質やビタミンなどの栄養素欠乏を引き起こし、栄養状態をますます悪くすることもあります。
まず子どもの栄養状態を評価することが、食事療法の基本である。
栄養評価で最も大事なのは身長と体重の増加曲線です。そのほか握力などによる筋力測定や上腕三頭筋の厚さ(腕の力瘤)の評価も重要です。慢性肝不全ではエネルギー消費量の亢進とともに栄養成分の欠乏が代謝活動の妨げになる、また胆汁うっ滞による吸収障害による栄養素成分(脂質や脂溶性ビタミンなど)もそれに拍車をかけるという悪循環があります。なかでもたんぱく質の欠乏と利用障害あるいはたんぱく質・カロリー栄養障害と呼ばれる低栄養状態であり、程度の差こそあれ多くの慢性肝障害患児で認められます。またたんぱく質代謝の目安となる窒素代謝は肝機能が低下するほど強く影響を受けます。主に肝臓で代謝される芳香族アミノ酸(aromatic amino acid: AAA)のクリアランスが低下する。エネルギー源としてたんぱく質の分解亢進が進むと、主に筋肉で代謝される分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid: BCAA)の利用率が高まり血漿BAA濃度は低下する。そのためBACC/AAAの濃度比(Fisher比: Val+Leu+Ile/Phe+Tyr)も低下することになり、正常小児ではFisher比は通常3~4であすが、肝不全児では1.8以下になります。慢性肝不全児では糖質代謝、たんぱく代謝、脂質代謝などの異常が関連しながら同時に進行すると、筋肉量が減少して四肢がやせた状態、いわゆる「サルコぺニア」の状態となります。
また健常児では肝細胞内のグリコーゲンが分解され、夜間の血糖を一定に保っている。肝不全児ではグリコーゲンの蓄積が低下しており、一晩絶食(12時間)エネルギー基質の変化は2~3日の絶食に相当するといわれる。したがって患児は夜間の飢餓状態にあると考えられます。この夜間飢餓状態の改善には糖質の就寝前摂取が有効であることが報告されています。就寝前糖質を補給することで肝細胞グリコーゲンの分解が緩徐になり飢餓状態が改善するためです。
さらに、肝不全ではインスリン抵抗性が増加することによる末梢組織でのグルコースの取り込み低下と糖新生の亢進、肝グルコースの合成低下などがあります。その結果エネルギー源として脂肪が利用されるようになり、脂肪組織からグリセロール、遊離脂肪酸の放出が増加します。これらは本来ならば糖新生やケトン体合成の基質として利用されるものだが、肝機能異常のためその効率は悪化します。
また胆汁うっ滞がある場合には、脂肪吸収障害を生じるために脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の欠乏が問題となります。したがってビタミンA、D、E、Kなどの様々な欠乏症に注意を払わなくてなりません。このように成長発達に関与する因子が多く、慢性肝不全児を診るうえでは大変重要な点です。
慢性的な肝障害とそれに由来する栄養障害を有する小児であっても、時に栄養補給対策が遅れがちになることがあります。したがって慢性肝疾患と診断された児に対しては定期的な栄養評価を行い、栄養・食事療法を積極的に進めることが大事です。それによって肝病変の進展を防ぎ、栄養状態や代謝異常を改善し、合併症を予防することが期待できるわけです。

III 栄養療法の実際
慢性肝不全に対する栄養療法を行うには、まずエネルギー補給量を考えます。その際は患児が発育時期のどの段階にあるかを考慮します。成長期の患児では標準的摂取カロリー量の1.2~1.5倍が必要とされています。とくに乳児ではミルクの追加が必要です。栄養療法を行っても成長発達が望めない場合は内科的治療の限界であり、肝移植の適応となります。
1)脂肪の補給
MCT(medium chain triglyceride: 中鎖脂肪)の補給が必要です。
MCTは炭素数6~12個の飽和脂肪酸から構成され、天然にはココナッツオイルなどに多く含まれています。胆汁うっ滞などにより脂肪吸収能が低下している場合はMCTミルクを用いることが常識になっています。またMCTを使用した食品にはパウダー、オイル、ゼリー、クッキーなどがあり小児に対しても使いやすいとされています。また脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補給も重要である。
2)タンパク質の補給
慢性肝不全児に対しては高蛋白食(2.5~3g/Kg/日)、高糖質、高ビタミン食が基本ですが、肝性脳症があればたんぱく制限(2.0g/Kg/日)をします。BACC製剤の必要量は成人では体重1kg当たり0.4gとされますが、小児の慢性肝不全に対する治療経験は少ないが、肝移植前の状態の改善には有用とされています。最近、移植前のBCAA投与は栄養状態の改善を介して、感染防御能も改善することいわれています。

IV慢性肝不全を来す各肝疾患に関する具体的な食事療法のポイント
1)慢性肝炎
小児期の慢性肝炎としてB型、C型が重要です。小児では自覚症状は成人に比較してもほとんどありません。10代の子どもではトランスアミナーゼ値が1,000 IU/l以上になると軽度の倦怠感が現れることがあります。その場合でも発育障害を来すことはありません。したがって肝硬変にならない限り食事療法の必要はありません。むしろ高カロリー食と安静を強要し、脂肪肝になってしまうことがあるので注意すべきです。

2)肝硬変
肝硬変は慢性肝疾患による肝細壊死による週末像である。病理学的には肝細胞の壊死と線維化による小葉改築、再生結節を呈する。肝臓の循環障害と肝細胞の極端な減少が基本病態です。小児期の慢性肝不全で最も問題なのは成長障害、低栄養である。肝不全の重症度は前述したChild-Pughの分類が用いられます。
黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症の1つでも認められた場合は非代償性肝硬変といわれます。当然、蛋白質の異化亢進や低アルブミン血症などの代謝異常は悪化しているものと考えられ、食事療法もより厳密に行わなくてはなりません。また食後の安静をとることも大切であり、学校の給食であっても門脈血流を保つために、食後の約30分は臥床安静が望ましいです。腹水がある場合は塩分制限が必要になる場合があえいますが、塩分制限で軽度の腹水には有効とされています。しかし、減塩食で食欲を損なわないようにしなければなりません。重症例では減塩食の有用性は証明されていません。なお肝硬変ではアンモニアが増加し、アミノ酸のバランスが崩れてBCAAが少なくなります。しかしBCAAが多く含みAAAが少ない自然食品は残念ながら存在しません。したがってBCAAは薬剤として病院でもらう必要があります。
肝性脳症があれば経口摂取は難しく、経管栄養が必要になります。血中アンモニアの増加を防ぐためたんぱく質の制限(2.0 g/Kg/日以下)や腸内細菌によるアンモニアの発生を抑制するためにラクツロース(5~20 ml/日)を使用します。また便秘を防ぐために、海藻、野菜、果物など食物繊維を十分に摂るようにします。
3)門脈圧亢進
食道静脈瘤がある場合は食道を物理学的に刺激しないように注意すべきです。食道の炎症を悪化させる香辛料などの刺激物や硬を避けます。具体的には小骨のる小魚、せんべい、ピーナッツ、かりんとう、などは避けましょう。

おわりに
小児は常に成長しているので、成人と同様の発想で食事療法はできない。適切な食事療法をしても、患児が摂取するかして否かはわからない。各病院の栄養科とタイアップして、慢性肝不全児で食欲のない児にいかに美味しく食べてもらう工夫が大切です。