これって肝臓病?

乾あやの副理事長

 

私たちが所属する済生会横浜市東部病院の小児肝臓消化器科は消化器の専門的な医療を行っており、年間約50例の肝生検、上部消化管内視鏡検査を140例、下部消化管内視鏡検査を約100例、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)を実績があります。私たちは、乳幼児健診は行っておりませんが、肝臓に関することで、一般の小児科の先生に就学前の子どもたちの健康を守るために期待している事項を考えてみたいと思います。

 

どのような症状から肝疾患を疑うか

乳幼児健診において、小児の肝・胆道疾患に遭遇することは多くはありませんが、肝臓が大きい? あるいは黄疸がある?などから、もしかして肝臓病かなと思うことは少なくありません。また乳幼児期には各種のウイルス感染症に罹患することが多いですが、その際に行ったスクリーニング検査で血算、CRP、一般検査を行い偶然の機会にトランスアミナーゼ値が高いことをしばしば経験します。とくに血液検査で偶然の機会にトランスアミナーゼ値が高い場合を筆者らはChance LFD(liver function disorder)と呼んでおりますが、この言葉は便利であり、しばしば用いられるようになりました。一般に肝臓病はかなり病変が進行しないと、黄疸、腹水、吐血などの古典的な肝臓病らしさは現れないことが多く、そこまで進展すると不可逆的な状態になっていることが多く、内科的治療の限界となることが多いので、なるべく早期に肝臓病を適切に診断することは重要です。

肝腫大

 乳幼児は年長児と比較すると腹直筋が柔らかく、しかも肋骨弓の角度が開いているので、肝臓の触知が容易です。また、乳幼児では左葉と右葉の大きさが1:3であり、生理的に左葉が大きい。乳幼児健診に不慣れな医師が乳児の健診をして肝臓の腫瘍があり、血液検査をしてαフェトプロテインが高いので、肝がんを疑い紹介されたことが複数回あります。著明な肝腫大は視診でもわかりますが、通常は右季肋部において、鎖骨中線上で、肋骨下縁に肝辺縁が何センチ触れるかを判定します。肝腫大が明らかな例には糖原病やライソゾーム病などの先天性代謝異常や悪性リンパ腫のようないろいろな血液疾患が潜んでいる可能性があります。一方、乳児期には正常でも脾臓は触れますが、乳児期以降でも脾臓が触れることがあれば異常です。なにしろ、肝腫大や脾臓腫大を疑ったら超音波検査を行うべきです。

黄疸

新生児期の除くと病的である。乳幼児にカロチン血症ではしばしばみられるが、眼球(眼球強膜)黄染は明らかに異常です。総ビリルビン(T. Bil)値が2.0 mg/dL(34μmol/L)を超えると眼球が黄染します。黄疸を疑えば総ビリルビン値と直接ビリルビン値を検査します。直接ビリルビン値が増加している黄疸は肝細胞内の抱合ビリルビンの転送障害や胆汁排泄障害による。直接ビリルビン値が総ビリルビンの15%以上ある、あるいは総ビリルビン値に関わらず直接ビリルビン値が1.5mg/dL以上は直接型高ビリルビン血症であり、胆汁うっ滞です。

皮膚掻痒

 肝内外の胆汁うっ滞があると皮膚掻痒がみられることがあります。胆汁中にはビリルビン以外に胆汁酸、コレステロール、リン脂質、電解質などを含んでおり、それぞれが肝細胞内転送機構を有する。したがって、胆汁うっ滞=黄疸とは限らなわけです。痒みとは皮膚、粘膜、上気道、結膜などに生じる不愉快な感覚であり、皮膚疾患の一般的な症状である。皮膚掻痒感には末梢性と中枢性がある。末梢性は皮膚科的な症状であり、ヒスタミンなどによる末梢知覚神経受容体が刺激されることによります。中枢性の皮膚掻痒は大脳皮質や視床に存在するオピオイド受容体が関与します。各種の胆汁うっ滞症とくに、Alagille症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)などでは強い痒みのためQOLがきわめて悪化することも多いです。痒みのために日常的に引っ掻くと皮膚の結合織が肥厚し重症のアトピー性皮膚炎のように苔癬化し象皮膚様になることもあります。とくに無黄疸性の場合は血清ビリルビン値も上昇しないので、γGTP、血清胆汁酸、コレステロールなどを検査しないと胆汁うっ滞の存在に気が付かれなことも多いです。

尿の黄染や灰白色便

 胆汁うっ滞があるとウロビリノーゲンが増加するので濃黄色の尿になると誤解されることがあります。しかし、ウロビリノーゲンは無色であり、胆汁うっ滞があるとウーロン茶色の濃黄色尿となりますが、これはビリルビン尿であす。灰白色便も胆汁うっ滞の重要な所見ですが、灰白色便にビリルビン尿が混ざると黄色にみえることがあるので、とくに女児では注意します。患児の便の色や尿の色を医師自らが観察することが大切ですが、保護者にスマートフォンなどを利用して記録してもらうのもよい方法です。

くも状血管腫、手掌紅斑

 この所見から肝疾患を疑うことは少ないですが、すでに肝硬変に至っていると、エストロゲンの過剰状態がみられ、このような症状がみられる場合があります。中心部に拍動性の血管がみられ、これを中心に細い糸状の血管が放射線状に伸びて蜘蛛の足にます。手掌紅斑は斑状の紅斑であり、手掌の拇指球、小指球、指先端に目立ちます。

吐血
通常は肝外門脈閉鎖や肝硬変でみられます。一般に門脈圧が10 mmHg以上になると、腹水や食道静脈瘤からの出血があり、初発症状が吐血の場合は先天性門脈閉鎖症や先天性肝線維症のことがあります。