済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 顧問
NPO法人 日本小児肝臓研究所 理事長
藤澤知雄

肝臓は門脈と肝動脈からの血流を受けています。肝臓は全身の循環系と関連性が高いのです。肝臓は全心拍出量の約25%の血流を受けており、種々の循環障害に対しては影響を受けやすい臓器です。循環障害としては先天性心疾患の中では虚血性肝障害とうっ血肝に分けられます。うっ血肝としては、僧房弁狭窄症、三尖弁閉鎖不全症、肺性心、心筋炎、収縮性心内膜炎など、すべての右心不全が原因となります。成人では昔から、慢性心不全に肝硬変を伴うことは良く知られておいます。これを心臓性肝硬変(Cardiac cirrhosis)と呼ばれていました。うっ血肝では肝静脈圧の上昇により肝類洞周囲の浮腫(perisinusoidal edema)を来たし、肝細胞への酸素拡散が低下し、炎症を伴わない虚血性の小葉中心性の線維化をきたすことが、肝硬変になる要因です。うっ血による肝障害の代表は先天性心疾患の手術後のFontan associated liver disease (以下FALDと略)とが注目されています。

FALDでは中心静脈の上昇により肝組織所見では小葉の中心静脈周囲に放射線状の線維化、中心静脈間の線維性隔壁の形成、類洞の著明な拡大がみられ、FALDの基本病態は中心静脈圧(CVP)の慢性的な上昇、およびそれに伴う下大静脈、肝静脈のうっ血に起因し、肝線維化が進行すると、うっ血性肝硬変になると考えられています。しかし、Fontan術の術式、心房中隔開窓術(fenestration)の有無、CVP上昇がどのように肝臓に影響し、肝線維化を進展させ肝硬変に至る過程などに関する検討もされておりますが、まだ不明な部分が沢山あります。またFALDの中にはうっ血肝にとどまらず、限局性結節性過形成(Focal nodular hyperplasia以下FNHと略)、肝腺腫、肝細胞がんの合併が報告されています。

肝線維化に関して、Fontan術後のうっ血性肝性硬変例において、血清線維化マーカーが肝線維化の進行に関連しております。そして類洞の線維化にとどまらず、小葉内の門脈域にも線維化が半数の症例にみられ、肝針生検による肝組織を検討ではほぼ全例に肝類洞の線維化がみられ、高率に小葉の門脈域の線維化があります。さらに一部の症例では肝硬変に進展しており、門脈域の線維化と血液検査では血小板減少が相関しています。血小板減少は肝線維化が進行すると門脈圧亢進による脾機能亢進と肝実質細胞の減少によるトロンボポエチン産生の低下が原因と考えられています。

FALDの頻度に関して、欧米ではFontan術後に約50%にFALDがみられるとされていますが、本邦におけるFALDの頻度に関する報告はきわめて少ないのでわかりません。

一般に肝線維化の原因は肝炎ウイルス感染、アルコール過剰摂取、メタボリック症候群、うっ血肝など多岐にわたっております。この中で肝炎ウイルス感染における肝線維化メカニズムは炎症により肝内マクロファージであるKupffer細胞が活性化するとTransforming growth factor-β(TGF-β)などのサイトカインやMatrix metalloproteikinase (MMP)などの蛋白分解酵素が産生されます。TGF-βなどのサイトカインは類洞内皮細胞と肝細胞間のDisse腔に存在する肝星細胞(伊東細胞)を活性化し、筋線維芽細胞へと形質転換させる。活性化された肝星細胞は細胞外基質であるコラーゲンを産生させます。また同時にMMPはコラーゲンの分解を促進しますが、肝組織中のMMPの抑制因子が動員されないと線維産生が優位になると考えられます。

結局、肝線維化はこの線維合成系と分解系の平衡が破綻することによると考えられています。肝線維化の要因として肝炎ウイルス感染以外にはアルコールや類洞内圧に増加も原因となることが報告されています。動物実験では肝静脈を結紮してうっ血肝を作成すると肝星細胞が筋線維芽細胞に形質転換しコラーゲンなどの基質蛋白を産生することが確認されていいます。うっ血肝をマウスの肝臓直下の下大静脈を結紮して作成し、詳細に検討すると、類洞の周期的な機械的な拡張により、類洞内に血栓(Thrombosis)が発生し、これが星細胞からfibronectionのreleaseを促進することが知られています。

心機能と肝組織に関しては、肝線維化とCVPは相関しております。また類洞の圧負荷のみならず、前述したような心拍出の減少による酸素供給の低下も肝線維化の一因と考えられている。さらに、うっ血性肝硬変は類洞内に血栓が増加し、小葉内の中心静脈から肝静脈に波及し、虚血性の変化により実質細胞量の減少することが線維化に関与しています。

このように、現時点ではFALDは肝静脈圧の上昇による肝類洞の拡張による機械的刺激、血栓形成、虚血により肝細胞への酸素供給の低下により肝類洞の線維化がみられ、さらに門脈域の線維化が加わることで肝硬変に進展すると考えらます。このようにFALDでは肝類洞の線維化に留まらず門脈域の線維化があることが肝硬変に進展ことはFontan術後の管理上、重要であり、いったん肝硬変が完成すれば著明な肝機能低下に伴う慢性肝不全や血行動態の変化によって脾腫、門脈体静脈シャント、血小板減少、消化管静脈瘤など門脈圧亢進症状が発現します。さらに肝硬変まで進行すると肝細胞がんの発生する頻度は高くなります。

診断

FALDでみられる臨床所見で重要な点はASTやALTなど一般的な肝機能検査では肝の予備能、慢性的な肝障害を十分に反映しないことです。肝病変を示す検査としてはプロトロンビン時間、血小板値が有用です。プロトロンビン時間は肝予備能を判定するには良いので、経時的に測定すべきです。しかし、Fontan術後ではアスピリンやワーファリンなどを服用している例が多く、慎重に評価すべきである。またIV型コラーゲン、ヒアルロン酸、プロコラーゲン-III-ペプチッド(P-III-P)などの線維化マーカーがFALDの評価には有用であるが、肝硬変と非肝硬変の区別はこれらの線維化マーカーだけでは困難です。前述したように血小板数も重要であり肝線維化が進行すると血小板数は減少します。血小板数はワンポイントでの判断や無脾症候群での評価は難しいが、経時的に検査すべき項目です。

一方、肝線維化が進展した場合は常に肝細胞がんなどの発生に注意すべきでありαフェトプロテイン(AFP)やPIVKA-IIも定期的に検査すべきであるが、ワーファリン使用時では変性ビタミンKが増加するために後者は疑陽性になるので注意する必要があります。最近、C型慢性肝炎の線維化の程度を血清中のMac-2Binding Protein(M2BP)糖鎖修飾異性体(M2BPGi)を測定することにより推測することが可能になり、C型肝炎以外の慢性肝疾患においても応用ができるか検討されている。筆者らもFALD例にM2BPGiを測定していますが、肝生検による線維化とM2BPGiは有意な相関はみられなかったですが、心不全の指標であるBNPとM2BPGiは有意な相関がみられました。現段階ではFALDが肝硬変に至るメカニズムは中心静脈圧の上昇による肝類洞の機械的ストレス、類洞内の血栓形成、Disse腔内の肝星細胞の活性化、これによる肝線維芽細胞への形質転換、コラーゲンの増加、中心静脈周囲からの線維化の進展、門脈域にも線維化がみられ、肝硬変に進展する、というメカニズムが考えられます。

FALDの画像・組織診断

1.画像
超音波検査は肝表面の凹凸、辺縁、肝静脈の拡張、占拠性病変などを観察します。肝硬変になれば超音波検査の診断は比較的容易ですが、肝線維化の進展度の判断は困難です。超音波所見の中では実質内のhyperechoic spots(HES)が注目されています。肝線維化を定量的に評価するのは困難であるが、超音波装置を用いた肝の線維化による弾性診断が可能となっています。すなわちFibroScan弾性波が肝を伝搬する速度を計測することにより肝の弾性値を測定することが可能となりました。またMR elastographyはMRIを用いて非侵襲的に物体の硬さを定量する方法であり客観的評価に優れている。造影CT所見として造影効果を有する網目状陰影、表面の凹凸、hypervascular mass、腫瘍形成などを重視していますが、とくに肝硬変になる前の重症な肝線維化例においてZonal enhancementの頻度が高くなります。 画像診断は肝硬変にとどまらず肝がん、肝腺腫、FNHなどの腫瘤性病変の診断や鑑別診断に重要です。

2. 肝組織
肝生検はサンプリングエラーの可能性はありますが、現時点では最も信頼できる肝線維化の診断手段です。多数例の検討では、ほぼ全例が肝類洞線維化と中心静脈の線維化がみられ、その他には中心静脈壊死、門脈域の線維化がみられるます。

肝生検を行えば肝線維化の評価は可能となりますが、Fontan術後では肝静脈圧が高く、血栓予防のため抗凝固療法をしている場合があるので通常の肝針生検は出血のリスクが高くなります。経頸静脈経由のカテーテルを用いた肝生検は比較的安全であるが、Fontan循環の解剖学的特性から肝静脈wedge 肝生検は困難な場合もあります。いずれにしろ肝生検は肝専門医に委ねるべきです。

治療と管理

重要な点は、いかにして肝線維化から肝硬変への進展を防ぐことであり、肝硬変への進展を防ぐことができれば、肝細胞がんの予防も可能と考えられます。FALDの予防は確立していないが、右房圧を軽減するための心房中隔の開窓術(fenestration)が効果的とする報告もありますが、まだ一致した見解ではありません。欧米における成人の多数例の検討では胃食道静脈瘤、腹水、肝硬変などは重要である。肝硬変では肝細胞がんの発生リスクは増加してQOLは著しく悪化します。今後、本邦でもFontan遠隔期におけるQOLの調査や肝硬変の実態を調査する必要がある。また同時に、成人に達する例では禁酒の指導やメタボシック症候群の予防も重要である。さらに本邦の小児科医や内科医の多くはこのFALDの存在を知らないので、この病態の存在を広く啓発していく必要があります。

参考とした主な論文

1)藤澤知雄, et al, :Fonan循環における肝合併症. 日小循誌 29: 162-170, 2013
2) Ghaferi AG, et al, :Progression of liver pathology in patients undergoing the Fontan procedure:Chronic passive congestion, cardiac cirrhosis, hepatic adenoma, and hepatocellular carcinoma. J Thoracic and Cardiovascular Surgery 129: 1348-1352, 2005
3) 池本裕美子, et al, :単心室に対するFontan術後に合併した肝硬変の1例. 日本小児科学会雑誌 111: 55-59, 2007
4) Simonetto DS, et al. Chronic venous congestion derives hepatic fibrogenesis via sinusoidal thrombosis and mechanical forces. Hepatology 61:648-659, 2015
5) Kiesewetter CH, et al, : Hepatic changes in the failing Fontan circulation. Heart 93:579-584, 2007