Q: 小児へのB型肝炎ワクチン接種時のバイアルの残液を利用できないですか?
A. わが国で現在のところ入手できるB型肝炎ワクチンはビームゲン®とヘブタバックス-II®のみです。ビームゲンには防腐剤として微量のチメロサールが添加されており、0.25 mL製剤と0.5 mL製剤があります。10歳未満の小児では0.25 mL製剤が汎用されています。一方、へプタバックス-IIチメロサールは添加されていませんが、現在のところ0.5 mLの製剤しかありません。したがって小児に接種する際に、一度針を刺したものは直ちに使用して、バイアル中の残液があっても処分することになります。確かに医療経済的には残液を破棄するのはきわめて残念です。この点を考慮して現在、0.25 mLのへプタバックス-IIを製造し、承認手続き中です。したがって近い将来(2018年中)はこのような残念なことは無くなると思います。一般的に、チメロサールを添加していないワクチン製剤に関してですが、1920年代に使用時の針刺しを繰り返したことによってブドウ球菌で汚染された事例があります。現在、環境汚染の点から水銀を排除するという世界的な動向があり、ワクチン製剤の添加されるチメロサールの減量や除去が進んでいます。
Q. B型肝炎母子感染予防のためのB型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種事業についておしえてください。
A. わが国では、1984年頃に世界に先駆けて実用化しました。その頃、B型肝炎ウイルスの母子感染に関する研究は、わが国と台湾が世界をリードしていました。わが国では、1986年からB型肝炎ウイルス感染のリスクが高い、B型肝炎ウイルスが感染している母親から生まれる新生児にB型肝炎ワクチンを接種することで、感染を予防しようとしたものです。当時の新聞などの報道では、「B型肝炎母子感染一掃へ」「40年後にはB型肝炎がゼロに」などの見出しで大々的に取り上げられました。
当初は、妊娠初期のHBs抗原スクリーニング検査で陽性の妊婦には、HBe抗原とHBe抗体を検査して、HBe抗原陽性の妊婦から生まれた新生児を対象にしてB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)注射、ならびにB型肝炎ワクチンの接種をするB型肝炎ウイルス感染防御処置が公費負担で実施されました。その後、1995年には感染防御処置の対象が、HBe抗原陽性のHBs抗原陽性妊婦に限らず、HBs抗原陽性の妊婦から生まれた全出生児に対象が拡大されました。また妊婦のHBs抗原検査を除いて、公費負担ではなく健康保険給付の対象となりました。
Q. 母子感染の予防スケジュールが変更になったと聞きました。どのように変わったのでしょうか?
A. 2013年までの新生児に対する予防スケジュールは、対象児に対して出生後48時間以内にHBIG(HBs抗体を含む免疫グロブリン)を筋肉注射し、生後2か月時にB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種し、続いて初回接種後の1、3か月後(すなわち生後3、5か月)にHBワクチンを接種するというものでした。
一方、海外では出生当日にHBIGとHBワクチンを投与(接種)し、生後1、6か月にHBワクチンを接種するというシンプルな方法が一般的です。しかし、日本ではこの国際的には標準的な方法は、なかなか適用されませんでした。そこで、日本小児栄養消化器肝臓学会、日本産婦人科学会からの変更の要望に基づく公知申請がなされ、2013年10月に承認されました。また、2014年3月にはHBワクチンおよびHBIG製剤の添付文書の内容も改訂されました。
出生直後(12時間以内が望ましい)にHBIGとHBワクチンを投与(接種)し、初回接種の1、6か月後(生後1、6か月)にHBワクチンを接種するというシンプルなスケジュールに変更されました。このスケジュール変更により、B型肝炎母子感染の予防不成功例が減少すると期待されます。
Q. B型肝炎とはどのような病気ですか?
A. B型肝炎とはB型肝炎ウイルスというウイルスの感染症です。このウイルスに感染すると肝臓に入り、肝細胞の中で増えます。肝炎ウイルスが増える段階でいろいろなウイルスの部品(ウイルス蛋白)ができます。
肝炎ウイルスに感染すると、このウイルスに関連した蛋白(B型肝炎の抗原)やその抗体を血液検査することにより、現在感染しているか、以前に感染した既往があることを知ることができます。B型肝炎には慢性肝炎と急性肝炎がありますが、感染して急性で終わるか慢性化するかは、B型肝炎ウイルスに感染した時の年齢、B型肝炎ウイルスのタイプ(遺伝子型)、B型肝炎ワクチンの接種歴などによって異なります。
慢性肝炎では肝硬変にならないと、黄疸や腹水など典型的な肝臓病の症状はみられません。急性肝炎でも多くは無症状です。ですから血液検査をして肝機能やウイルスの抗原や抗体を調べると診断できます。
Q. 母子手帳にB型肝炎ワクチンの記載がありますが、このワクチンはどういうものですか?
A. ワクチンには病原体の病原性を弱くし、本当の感染の予行演習することができます。ワクチンを打つことを予防接種と呼びます。B型肝炎ワクチンはパンなどを作るときに用いる酵母菌にB型肝炎ウイルスの遺伝子を組み込んで、発酵させてつくるワクチンです。
このワクチンはとても安全で、効果的なものです。現在、世界で生まれる赤ちゃんの過半数(約75%)はこのワクチンの定期接種をしています。日本ではまだB型肝炎ワクチンは定期接種をしていません。日本では最も感染する機会の多いB型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれる赤ちゃんに限ってこのワクチンを接種して、感染を予防しています。
日本では最近になり母子感染以外の家族内感染や保育園などでの感染が問題となり、外国とおなじように、すべての赤ちゃんにこのワクチンを接種しようとする動きがあります。また市町村によっては母子感染以外の感染予防に補助金を出して接種率を上げているところも増えております。
Q. 保育園でもB型肝炎ウイルスの感染がみられるといわれました。保育園では感染はどのようにうつるのでしょうか?
A. 乳児は手に触れるものを口に入れたりします。また幼児は仲間に噛みつくこともあります。乳幼児は適切な手洗いや排泄物や体液で汚染された物の処置などが基本的な衛生対策はできません。保育園では種々の感染症が流行することはよく知られており、B型肝炎に関しても、集団感染が知られています。
保育園での集団感染をしらべると、皮膚と皮膚との接触による感染、お友達同士の噛みつき、唾液で汚染され玩具の共用など感染経路があります。実際に、B型肝炎ウイルスに感染している子どもの唾液、汗、涙などの体液にはB肝炎ウイルスが存在し、実際に感染力があることが証明されています。
Q. 保育園でのB型肝炎ウイルスの感染事例は本当にあるのですか?
A. 保育園などの施設でB型肝炎の感染をしらべることは大変難しい問題があります。まず、個人情報の保護があります。個人の病気は最も保護されるべき情報なので、病名を公にする必要はありません。B型肝炎に感染しても症状がないので血液検査をしなければ感染者か否かわかりません。
保育園での感染事例は、医学雑誌や保健所の資料などを探すことはできます。いままで東北、沖縄、佐賀などでB型肝炎の集団感染の報告があります。もし、保育園の園児全員が外国のようにB型肝炎ワクチンを接種していれば、集団感染は起こらないし、感染の心配はないので感染している子どもへの偏見や差別も起こらないわけです。
Q. わが国ではB型肝炎の予防は世界に比べると遅れていると聞きました。本当ですか?
A. 世界では天然痘、結核、B型肝炎など有用な疫病(感染症)を撲滅しようとしています。たとえばWHOは193か国の加盟国に対して、B型肝炎ワクチンを定期接種に組み込むことを強く推奨しています。現在では180か国ではB型肝炎ワクチンをすべての国民に接種しています。B型肝炎の感染が多いのはアジア、アフリカですが、感染者の多い少ないに関係なく、すべての子どもにB型肝炎ワクチンを接種して、この病気を撲滅しようとしています。
わが国はアジアの中では例外的にB型肝炎の感染がヨーロッパ並みに低いですが、わが国から世界へは毎年2千万人渡航するという時代です。わが国ではB型肝炎ワクチンの定期接種をしていないことも大きな理由ですが、本来は日本になかったタイプのB型肝炎ウイルスが海外から輸入され、若い世代を中心に著しく増加してしまいました。またB型肝炎ウイルスに急性感染で慢性化しなくともウイルス遺伝子(設計図)は肝臓に残ることも判明しました。他国と同様にB型肝炎ワクチンを全員に打つ定期接種化に向けた活動が盛んになりました。一刻もはやく定期接種化する必要があります。
小児肝臓病 相談室
Q. 同居している父にHBs抗体があることが最近分かったのですが(HBs抗原は陰性でした)、この場合、血液や体液を通じて家族に感染する可能性はまだあるのでしょうか?
最近の研究では、たとえ肝炎が治癒したとしても、体内に微量のウィルスが残るということで心配しています。3歳の子供も同居しているのですが、約1年前にビームゲンを投与してから抗体検査していないので、近日中に抗体検査をする予定です。小児科では、具体的にどのような項目を調べてもらえば良いのでしょうか?
まだ父親以外の家族は抗原抗体検査をしていないので、その家族から子供に感染する可能性もあるのではと心配です。とりあえず、HBS抗原が陰性で、HBS抗体が陽性であれば、生まれてから一度もHBVに感染していないと考えてよいのでしょうか?HBC抗体やDNA量も合わせて検査した方が良いのでしょうか?
あと、HBS抗体がどれくらいの数値になった場合、追加接種しないといけないのでしょうか?ビームゲンで欧米型(ジェノタイプA)のウィルス感染は防げるのでしょうか?欧米型の肝炎を防ぐためにはヘプタバックスを投与すべきなのでしょうか?
A. 父親はB型肝炎の病歴がありますか。もし、黄疸や全身倦怠感などの肝炎の症状があれば、ご指摘のように微量のHBVが肝臓に残っている可能性はあります。もし父親が今後リウマチ、癌など大きな病気にならなければ心配ないと思います。もし、 免疫抑制剤や抗がん剤を使う際は血液中のHBV-DNAをモニターした方が良いでしょう。
小児科の先生に約1年前にビームゲンを接種していただいたが、その後に検査をしていないのでHBs抗体が残っているか否か調べたいとおっしゃれば検査してくれると思います。HBs抗原が陰性でHBs抗体が陽性なら、HBVに感染はしていないと考えて問題ありません。
日本ではビームゲンとヘブタバックスの2種類のHBワクチンが使えます。何れも共通抗原であるa抗原を含んでいるのでどちらでも欧米型といわれる遺伝子型AのHBVの感染を予防することが可能です。