小松陽樹、乾あやの

HBワクチンの定期接種化が現実的となり、また多くの地方自治体ではすでにHBワクチン助成を行っております。一方、HBワクチン供給不足や転居などの様々な理由により、接種間隔の乱れがみられることからHBワクチン接種スケジュールについての質問が多数あります。このような状況から、当NPO法人日本小児肝臓研究所においての私案を提示します。

基本的な姿勢は、現在の小児科学会のスケジュールを順守することであり、3回目接種は月齢7-8だと思います。この接種間隔は添付書類通りであり、これ以外の間隔でワクチン接種をした場合、ワクチン効果は別問題として、予防接種健康被害救済制度や予防接種事故賠償保険による補償の対象として問題になる可能性があります。従って、米国は別として多少の間隔のみだれを考慮すると、誰でもわかりやすく妥協できる範囲は月齢12までと考えました。

各国のワクチンスケジュールを記載した論文があります(Rots NY et al, Vaccine, 2010,28,893-900)。
副反応の救済問題を無視して、ワクチン効果だけを考えると、論文で根拠を示せるのは月齢15(Keyserling et al. Journal of Pediatrics, 1994, 125, 97-69, 3回目が月齢12と月齢15の比較、乳幼児データ,)までだと思います。この論文以外は対象が乳児ではないため、接種間隔のデータとしては弱いと思います。

月齢18までとしている米国の根拠データはみつけられませんでした。成人を含めた複数の文献を読んだ限りでは、おそらく3回目の接種が月齢18でも抗体価上昇には問題ないと予想されますが、乳幼児での根拠は提示できません。

医師会や小児科医会などの立場で発言する場合は、小児科学会スケジュールの順守が重要と発言するのが最善と思います。

以下の論文などが私どもの考えの根拠となりました。

1)
ヘプタバックス、ビームゲンの添付文書には、1回目と2回目の間隔は4週間、3回目は1回目から20-24週経過したあとに接種すると記載されている。

[一般的な感染予防スケジュール]
通常、0.5mlずつを4週間隔で2回、さらに1回目の接種から20~24週後に1回の計3回を皮下または筋肉内に接種します。ただし、10歳未満の者には、0.25mlずつを同様の投与間隔で皮下に接種します。
HBs抗体が獲得されていない場合にさらにあと1シリーズ(3回)追加接種します。

※岡部信彦、多屋磬子 監修、一般社団法人日本ワクチン産業協会 2015(平成27年) 予防接種に関するQ&A集 p219より引用

2)
WHO (0-1-6か月、2-4-6か月、6週-10週-14週など)と、CDCのワクチンスケジュール(0-1-6~18か月)にはもともと違いがあり、この違いはどちらが正しいか結論は出ていない。
The Immunological Basis for Immunization Series. Module22: hepatitis B.
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/77755/1/9789241504751_eng.pdf

3)
CDCのスケジュールが月齢18までの根拠が明らかではない。以下の文章は米国が現在のスケジュールを開始した当時のCDCの解説文であるが、この文章では製薬会社が月齢18の根拠示すデータを保持している可能性を示唆している。
The third dose should be administered at 6-18 months of age. Limited available data suggest an augmented response when the third dose is administered after 12 months of age (Merck Research Laboratories, unpublished data, 1994). MMWR Recomm Rep. 1995 Jun 16;44(RR-5):1-9.Recommended childhood immunization schedule–United States, 1995. 3回目を月齢18までにした理由の1つは立て込んだワクチンスケジュールを避けて、3か所の同時接種を回避する目的がある(Universal Hepatitis B Immunization. Pediatrics, 1992,89, 795-800)。

4)
2回目と3回目の接種間隔をあけた方が抗体価の上昇は高いが、seroconversion率には差がない。
(3回目が月齢12と月齢15の比較、乳幼児データ, Keyserling et al. Journal of Pediatrics, 1994, 125, 97-69)

5)
2回目と3回目の接種間隔が1年以上と5年以上で比較すると、抗体価上昇に有意差はなし。
(成人データ:Jackson et al. Vaccine, 2007, 25, 3482-3484)

6)
1回目と2回目の接種間隔、2回目と3回目の接種間隔をともに伸ばした方が抗体価上昇は優れている。
(青年期データ, Middleman et al. Pediatrics, 2001,107, 1065-1069)

7)
0-1-6か月、0-12-24か月のスケジュールを比較すると、どちらも抗体価上昇に差はない。
(5歳-16歳のデータHelsey et al. Pediatrics, 1999,103, 1243-1247)