藤澤知雄  

15歳の未満の子どもからの脳死下での臓器提供は、2010年から可能になりました。臓器移植法の改正によって家族(遺族)が同意すれば臓器提供ができるようになったわけです。しかし、改正から5年たった現在でも子どもの臓器提供は増えてはいません。

日本臓器移植ネットワーク(JOT)によると、現在(2015年2月)までに臓器提供に至った15歳未満は7人であり、このうち厳密に脳死判定が求められる6歳未満はわずか3人にとどまっております。JOTは脳死下臓器移植の推進に関して活動をしております。たとえば運転免許や保険証に臓器提供意思表示を記載するようにしています。2010年以降に脳死下臓器提供者はいったん順調に伸びるように見えましたが、最近はむしろ低下傾向にあります。全国で1週間に1人の脳死下臓器提供がありますが、この数は低迷しています。一方、たとえば肝移植を希望している子どもは、いつでも年間数10人以上おります。これにはいろいろな原因や問題があります。とくに子どもで脳死判定が難しいこと、明確な病死と虐待を含む不慮の死の区別が難しいことなどです。臓器提供をする側の病院では主にICUなどの集中治療室において脳死疑いの患者がみられ、脳神経専門医が脳死の判定をするわけですが、その責任は主治医と脳死判定医に委ねられることが多く、近年の医療訴訟の事例をみていると、正しい脳死判定をしていても、非難や告訴が途絶えません。主治医や脳死判定医も疲弊してしまいます。このような事情から脳死下臓器移植に難色を示すことになります。やっかいな臓器提供の手続きをせずに、死亡診断書を書く方がリスクは少ないと考えるのは当然だと思います。このシステムを変えない限り、臓器提供数は増えないと思います。

このようななか、先日、大阪において脳死判定されて臓器を提供した6歳未満の女児の両親が朝日新聞の取材に応じたことが報道されました(朝日新聞1月20日朝刊)。この新聞記事によると女児は特発性拡張型心筋症という難病に罹患し、成人用(子ども用ではないのです)の補助心臓ポンプをつけて、海外での心臓移植を目指していましたが、このポンプ中にできてしまった大きな血栓が原因で脳梗塞を起こし脳死状態になったとされています。ご両親は娘さんの身体の一部が移植を待ち望んでいる他の患者のためになることを考え、脳死での臓器提供の意思を担当医に伝えたと報じられています。ご両親のご希望に沿って女児の心臓、肝臓、腎臓は移植施設である複数の大学病院に運ばれ、3名の成人女性と10歳未満の女児に臓器移植されました。移植をされた患者さんの経過は順調とのことです。

この報道は、いろいろな事を考えさせられますが、私にはとても残念に感じることがあります。娘さんのご両親は、実は臓器移植を切望する子どもに移植させたかったのではないか、ということです。日本は高齢化が進み、子どもを大事にすることが忘れられる傾向があると思います。簡単に「子どもは未来である、子どもは国の宝である」などと言いますが、国の宝を守る小児医療も国の宝のはずです。小児科医に40年、肝臓移植に約15年かかわってきた小児科医としては、悔しくて切なくてたまりません。子どもの脳死臓器は基本的には子どもへの命のリレーという約束ごとは守るべきと思います。肝臓は、解剖学的に2つ(左葉と右葉)のパーツに分けることが可能です。言い換えると、大人の肝臓提供があれば2人の子どもを救うことが可能です。子どもの臓器は子どもへ、大人臓器も子どもへの精神が重要です。一昨日(2015年2月23日)、私が非常勤で働いている済生会横浜市東部病院において、「臓器移植の現状」に関するシンポジウムが開催され、出席しました。そこで、今の私の思いの丈を書かせていただきました。