子どもの肥満は怖い -子どもの脂肪肝について-

NPO法人日本小児肝臓研究 理事長 藤澤知雄

 「子どもはぽっちゃりしているくらいがかわいい」と思っていませんか? 子どもの肥満の70%は成人肥満へと移行し、子どもでも生活習慣病になることがあります。 一生を健康で過ごさせるために、小児肥満・小児メタボリックシンドロームを予防することは大事です。肥満の最も重要な合併症に脂肪肝があります。脂肪肝(Fatty liver)とは、食べ過ぎや運動不足のために余った糖質や脂質が中性脂肪に変わり、肝臓に過剰にたまって、脂肪が肝臓全体の30%以上を占めるようになった状態です。子どもではアルコール多飲者はいないのでアルコールの多飲はないので非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver: NAFLD、ナッフルド)と呼ばれます。肝臓に蓄積する脂質は中性脂肪が主体です。わが国では従来から、肝細胞の5~10%の中滴性ないし大適性の脂肪滴(肝細胞核よりも大きい)が観察される場合に脂肪肝と診断されることが多いです。NAFLDの中では単純な脂肪変性に留まらず、炎症・線維化がみられる進行例があり、これはnonalcoholic steatohepatitis(NASH:ナッシュ)と呼ばれます。

 小児の脂肪肝は過食と運動不足による肥満に伴う症例の頻度が最も高いです。おもに過食により門脈経由で肝細胞に流入する脂肪酸量と肝細胞が合成する脂肪酸量の合計が、肝細胞での消費する脂肪酸量と肝細胞から分泌される脂肪酸量の合計を上回ると中性脂肪が形成され、肝細胞内に蓄積すると脂肪肝が生じることになります。

 最大の危険因子は肥満であり、男女ともに肥満傾向児の出現頻度は横ばいから減少傾向にあり、肥満傾向の割合はむしろ減少しております。わが国における大規模な小児の脂肪肝の疫学調査はありませんが、世界的にはNAFLDは小児においても最も頻度の高い肝疾患とされています。NAFLDの背景にはメタボリック症候群と共通する因子が多く、従来はNAFLDに二次的ストレスが加わることでNASHに至るという“2 hit theory(セカンドヒット説)”が広く認知されています。すなわちNAFLDは単純な脂肪変性に留まらず、炎症、肝細胞の風船状拡張、線維化がみられることがあります。First hit(脂肪変性)に2nd hitとして酸化ストレス、アディポサイトカイン、インスリン抵抗性、小胞体ストレス、陽内細菌叢、鉄などが考えられている。この2nd hit theoryは病態を理解するための便利な仮説ですが、現在では複数の要因が並行してNASHへの進展に関与していると考えられます。遺伝的背景ではGene Wide Association Study (GWAS)による遺伝子解析がなされ、脂肪滴膜に局在しリパーゼ活性を制御するPatatin-like phospholipase 3 geneが有力な疾患感受性遺伝子として報告されております。一方、低出生体重児において成人期のメタボリック症候群の増加が問題となっている。これはdevelopmental origins of health and disease (DOHaD)仮説に基づいており、子宮内環境が低栄養状態などのため低出生で出生した児は胎生期からの適応しようとプログラミングされると考えられています。脂肪肝の診断ですが、臨床的には自覚症状はほとんどない。メタボリック症候群とオーバーラップするので肥満、高血圧がみられる小児が多いです。血液生化学検査学的検査としてはALT(GPT)優位のトランスアミナーゼの上昇、γGTPの軽度の増加がしばしばみられます。肥満児ではコリンエステラーゼやコレステロール高値もみられます。NASHへの進行例では肝線維化マーカー(血中ヒアルロン酸、4型コラーゲン7S、プロコラーゲンIIIペプチド)、酸化ストレスマーカー、炎症性サイトカインの上昇を認めます。またNAFLDの背景にあるインスリン抵抗性に関連してメタボリック症候群に伴う検査所見を認めます。線維化が進行するとAST/ALT比≧1となり、血小板減少を認めます。

 画像診断としては、腹部CT検査は有用ですが、1回の検査で年間許容量の5倍程度被ばくするので、小児で安易にNAFLDの診断目的では行いません。超音波検査ではNAFLDの肝臓は通常腫大し、実質のエコーレベルは増加して“bright liver”を呈します。その他には肝腎コントラストの増加、胆嚢周囲は脂肪肝になりにくい所見(focal spared area)、深部減弱、肝血管の不鮮明化などがみられます。肝線維化の診断としてはフィブロスキャンやMR エラストグラフィなどが用いられることが多くなっております。

 肝生検による肝組織検査はきわめて重要です。小児のNAFLDには2つのタイプがあると考えられております。すなわち成人に典型的にみられる形態である脂肪変性、肝脂肪の風船様腫大、類洞周囲の線維化を特徴とするもの(Type 1)と小児にみられる脂肪変性、門脈域の炎症・線維化があるが肝細胞の風船様腫大や類洞周囲の線維化はないもの(Type 2)です。しかし、その後の検討ではNAFLD/NASHはType 1 とType 2の両方を合わせもっていることが判明しました。小児では肝細胞の脂肪変性の程度と門脈域の細胞浸潤が強いのが特徴であり、成人に特徴的な類洞の線維化は比較的少ないようです。NAFLD患児全例に肝組織診断をしてNASHの診断することは現実的ではありませんが、すべてのNAFLDはNASHに移行する可能性を重視すべきです。

 管理についてはNAFLDからNASHへの進展を阻止することが管理・治療の基本であす。このためにはインスリン抵抗性を改善することが重要です。インスリン抵抗性の改善はメタボリック症候群の改善につながり、他臓器への障害も阻止できます。そのために必要なのは食事療法と運動療法です。しかし、小児を取り巻く環境は、飽食でストレスの多い環境ではこれを実行するのは難しいのが現状です。治療のモチベーションが希薄な小児では治療成績は悪いようです。筆者らは今までにNAFLD30例の治療・管理をしましたが、外来通院で食事療法と運動療法を指導し、FALDが改善した症例はほとんどおりませんでした。一方、入院で治療介入した症例では入院中は効率良く標準体重まで減量できましたが、約2/3は退院後の環境下で再発してしまいました。この背景には肥満患児の心理的背景が影響していると考えられました。すなわち、肥満児は非肥満児に比べ、屈折と不満を有する例が多く、さらに肥満度が増すと抑圧と防御の頻度が増える。学校では”いじめ”の対象になる例が多く児童心理士の介入は必須です。このような点を踏まえ、ここ数年ですが、当科で肥満の怖さについて市民公開講座を開催し、外来では、多職種とくに看護師、栄養士、心理士などの協力を得て、肥満の管理を行っておりますが、最近になり減量(体重減少)に成功する例が増加しています。

 脂肪肝の予後に関しては、たとえばFeldstein(The natural history of non-alcoholic fatty liver disease in children: a follow-up study for up to 20 years. Gut 58: 1538-1544, 2009 )らは米国において66例のNAFLD (平均13.9±3.9歳)を最長20年間追跡しています。55例(83%)はメタボリック症候群のうち肥満、高血圧、高血糖の中で1つ以上の兆候を有していた。66例のうち4例はNAFLDの診断後4~11年で2型糖尿病を発症していた。13例に肝生検を行い、5例に肝線維化を認め、2例は死亡し、2例は肝移植を受けています。私たちも肝硬変まで進展した小児期発症のNASH例を経験しております。この例は幼児期から肥満を認め、14歳時に黄疸を主訴に精査しましたが、高校生になったころ、腹腔鏡下の肝生検では出来上がった肝硬変でした。

 NAFLDは生活習慣が大きくかかわっている。生活習慣を改善するためには専門施設のみならず、かかりつけ医や学校と情報を共有し病診連携や学校との連携を保ち社会医学的な対応が必要です。子どもの肥満の恐ろしさが少しでもご理解していただければ幸いです。