低出生率の罠(少子化の罠)

日本小児肝臓研究所 理事長
藤澤 知雄

 若い世代の出生意欲は想像以上に低下しているようです。子どもがいない人々が増え、子どもを育て人々の経済的コストが増加すると、子どもを持とうとする意欲が減退するようです。経済的な理由で結婚しても子どもはいらない、少なくても良いと考える人が増えています。子どもが少ないことが当たり前の社会になることが、人々の意識に影響して出生への意識を低下させ、ますます少子化が加速するというのは「低出生率の罠(少子化の罠)」と知られています。

 日本は現在、この「罠」に陥ろうとしています。また、少子化のため産科医師は減少しており、日本国中で産科クリニックの閉院が続いており、安心して出産や子育てができる環境の維持が難しくなっており、まさに、「国難と呼ばれる状況」だと思います。

 このような社会情勢にやっと危機感をもった政府は今年6月、閣議決定した財政運営の指針「骨太の方針」の骨子は「異次元の少子化対策」です。今後は児童手当の拡充など、2024年から年間3.5兆円もの巨額の予算を投入し、少子化を止めようとしています。しかし、2022年には出生数が80万人を割り込み、過去最低を記録しました。さらに対策の財源については不透明のままで、国民の不信感は払拭されません。

 解剖学者の養老猛司氏は母が小児科医で、自身も鎌倉市内で保育園の理事長を30年以上にわたり務め、少子化には大変に危惧しているようです。氏は、そもそも少子化問題はシミユレーションが不可能な課題であり、それを解決できると考えることは間違いだと述べています。政府が人口減少を問題視しているのかというと、政府や官僚が子どもの減少をお金の問題ととらえています。若い人が減ると、働ける人が少なくなり、GDPが減少し、ますます日本の国際的位置が落下することを心配しています。これに対して養老猛司氏は、少子化問題は文化なので放っておけばよいと考えています。いよいよ日本沈没が現実的になれば、人は何とかしようと思うわけです。

 一方、日本の中で少子化が止まっている地方自治体があります。それは兵庫県明石市です。泉房穂市長は、「こどもを核としたまちづくり」として、所得制限のなしで第2子の保育料無償化、中学校の給食無償化、18歳までの医療費ゼロ、おむつの宅配サービスなどの支援策を拡充しています。現在、明石市は子どもを育てるナンバーワンの町と知られ、若い世代の人口が増加しています。

 養老猛司氏と泉房穂氏の両極端の少子化をめぐる考え方を紹介しましたが、どちらも正論のような気がします。皆さんはどのようにお考えでしょうか。