うっ血肝にみられる肝細胞がんの特徴
日本小児肝臓研究所 理事長
藤澤 知雄
うっ血肝に発生する肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma; 以下HCC)が注目されている。最もよく知られているのは先天性心疾患に対するFontan 術後にみられる肝疾患(Fontan associated liver disease; 以下FALD)に合併するHCCです。
肝臓は門脈と肝動脈から全心拍量の約25%に相当する血流を受けており、全身の循環動態の変化と関連性が高いです。循環障害としては先天性心疾患の中では虚血性肝とうっ血肝に分けられます。うっ血肝としては僧帽弁狭窄症、三尖弁閉鎖不全症、肺性心、心筋炎、収縮性心内膜炎など、すべての右心不全が原因となります。内科領域では昔から慢性心不全に伴う肝硬変を伴うことが良く知られており、これを心臓肝硬変(Cardiac cirrhosis)と呼ばれていました。最近ではうっ血肝による肝線維化、肝硬変、HCCなどの肝障害をCardiac hepatopathyと呼ぶことが増えております。
FALDの病変の現場は肝類洞(肝臓の毛細血管)であり、うっ血肝は主に中心静脈圧(CVP)の上昇により類洞血流の停滞し、血栓を形成しやすいこと、類洞壁細胞がストレッチされることにより、肝星細胞(HSC)が線維芽細胞化して、線維が産生されることが知られています。このような血栓形成と線維芽細胞が小葉中心性に線維化が起こるようです(図1)。
FALDの最も問題となる肝硬変の頻度に関しては欧米ではFontan術後30年では約43%が肝硬変になると言われています。肝硬変というと、黄疸、腹水、肝性脳症などをイメージしやすいですが、多くの患者さんはそのような重篤な症状はなく、QOL(生活の質)も悪くありません。そのような肝硬変を代償性肝硬変と呼びます。
現在、FALDが最も注目される点はHCCの合併があることです。HCCの頻度に関しては欧米の集計では2,470例のFALDの中で肝組織学的にHCCと確定できたのは33例(1.3%)だったとの報告があります。最近、日本からの報告ではFontan術後、10年以上経過するとHCCの合併が増加するといわれています。現時点ではFALDの患者さんは、Fontan術後10年たつと約1%にHCCが認められます。したがって、FALD患者さんは発がんすることを常に念頭に置きながら診療する必要があります。
図2に私たちのFALDの管理法を示しましたが、FALDの診療に当たっては、肝硬変やHCCを可能な限り早期に診断することです。私たちは可能な限りAFP検査を頻回に行います。また画像検査としては超音波検査、MRIや造影CT検査行います。FALDでは種々のhyper-vascular nodule (血管多過結節)がみられますが、とくに良性腫瘍であるFNH (限局性結節性過形成focal nodular hyperplasia;FNH)とHCCの鑑別には注意を払っております。