保育園のB型肝炎ウイルス(HBV)感染対策

NPO法人日本小児肝臓研究所 理事長 藤澤知雄

保育園などの施設内におけるB型肝炎ウイルス(HBV)の感染に関しては、感染している乳幼児や保護者に対する偏見、差別、誤解など多くのデリケートな問題があるので、感染実態調査はきわめて困難です。

歴史的には1987年にキャリア率の高い沖縄において保育園での水平感染が無視できないことが報告され、最近では佐賀県の保育施設におけるB型肝炎集団発生で大きな問題となりました。

保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について
https://kansen.pref.saga.jp/kisya/kisya/hb/houkoku160805.htm

保育園は日常生活でもHBV感染が起こりうることが確認されたわけです。

保育園でのHBV感染経路の証明は難しいですが、HBV感染者の血液、皮膚擦過傷やアトピー性皮膚炎などの浸出液はもちろん、鼻汁、よだれ、涙などの体液や分泌液の中にもHBVが存在することも明らかになっています。

保育園は乳幼児が長時間わたり集団生活をする場所であり、昼寝、食事、おやつ、遊びなど、いわば大きな家族みたいなところです。また、乳幼児は想定範囲外の行動をすることも多いです。

たとえば、手に触れるものを自分の口に入れたり、取っ組み合いのけんかをしたりします。さらに乳幼児は適切な手洗いや、排泄物や体液で汚染された物の処置など、基本的な個人の衛生対策、いわば標準的な予防対策はできません。

人は乳幼児期、学童期、思春期、成人期の各ライフステージにおいてHBV感染機会はあります。HBV感染は生涯にわたって感染リスクがあることを認識することが重要です。とくに小児ではHBV感染時年齢が低いほど一過性感染にとどまらず、キャリア化する可能性がある点を理解してください。

保育園内でのHBV感染の予防については大きく2つの対策があります。

まずは標準的な予防対策であり、保育園にはHBVキャリアがいると仮定して、標準的な予防対策をすることです。具体的には集団保育の場では,濃厚に子ども同士が接触することが多いため,出血部位や湿潤な皮膚病変に触れてしまう機会があいます。

佐賀の事例では感染経路として出血および滲出液を伴う皮膚疾患の 関与が指摘されています。また玩具の取り扱いにも注意を払う必要がある。玩具を口にいれたりすることがあるからです。

この対策としてクラスごとに使用する玩具は分けて木製やプラスチック製の玩具はこまめに水洗いすることを習慣にする必要があります。金属製の玩具の消毒には消毒用エタノールが適しています。布製のおもちゃは、洗剤で洗濯してから乾燥機で乾燥させるか、日光消毒が良いでしょう。

一方、HBVキャリアであることは保護されるべき重要な個人情報なので、基本的には保護者は保育所など、第三者に伝える必要はありません。しかし、近年の施設における感染予防に関する責任意識の高まりから、小児がHBVキャリアでることをあらかじめ知りたいという施設側の希望は高まっております。

この場合は、先に述べたようにキャリア小児や保護者に対して差別が生じないような配慮が必要である。
何よりも、施設職員や入園児全員にHBワクチンを接種していれば、このような心配はなくなります。

幸いわが国でも、2016年から念願であったHBワクチンの定期接種が始まり、現在も順調に定期接種は行われています。保育園でのこのような問題は近い将来は解決するでしょう。