なぜ児童虐待死は防げなかったのか
NPO法人日本小児肝臓研究 理事長 藤澤知雄
千葉県野田市において小学校4年生の女児が自宅の浴室で父親からの執拗な身体虐待により死亡した事件が日本国中に衝撃を与えています。虐待死した女児は生前に複数回にわたり大人へSOSを送っていたことが明らかになり、なぜ彼女のSOSが学校、児童相談所、親族、近所の大人に届かなかったのか、行政の対応が不適切であったのではという非難が相次いでいます。
私は小児科医です。小児科医は「国の宝である子ども」の命を守ることを使命に仕事をしています。私の場合は子どもの肝臓病を中心に、その予防、治療に専念してまいりましが、子どもの虐待に関しては門外漢です。しかし、この事件を受けて、子どもの命を守るべき大人として何か行動を起こしたいと思いました。今日はこのコラムを利用させていただき、この事件に関して思いの丈をお話させてください。
この事件はいろいろな意味で衝撃的でしたが、最も衝撃的であったのは父親の極端な二面性(二重人格)です。数多くの報道から推察すると父親の評判はきわめて良いのです。家庭外では笑顔を絶やさず、誰にでもきちんと挨拶をし、コミュニティー能力が高いとても好感の持たれる人物だったようです。しかし、家庭内では暴力で家族に君臨していたようです。おそらく母親も被害者であったと思います。この母親も女児の虐待に加わったことで逮捕されました。さらに衝撃的なのは女児が虐待死するまでをスマホで録画していたことです。母親は母子が父親から家庭内で虐待(Domestic Violence: 以下DV)を受けていたことを児童相談所に相談していたにも関わらず、母子ともに適切な支援は受けていないまま今回の事件につながったようです。
小児科医はDVに関して保護者(加害者)からその虐待の動機、告白、故意か否か、を無理に引き出すことはしないようにと、教わっています。それを実行しております。DVにいたる原因を探ることは司法の役割です。あくまでも被虐待児の対応や予防が重要です。今回の事件を受けて国会でも取り上げており、児童相談所の職員を大幅に増やすとう動きがあります。でも本当にこれだけで良いのでしょうか、非虐待児のSOSを受けても何もできない役人や大人をいくら増やしても無駄のような気がします。
児童福祉法の改正のたびに児童相談所や学校、警察などの連帯強化性が図られてきました。児童相談所には専門職の増員や研修の充実、弁護士や医者の配置も探られているようです。安倍政権はさらに4年間で児童相談所の職員を2,890人増やすと意気込んでいます。とても良いことだと思いますが、本当にこれらの取り組みだけで済むのでしょうか? 国が定める制度のどこに欠陥があるのか、構造的な問題をあぶりだす必要があると思います。たとえてみると穴のあいたバケツに水をいれるだけでは、やはり水漏れは防げないように、システムの改善とともに、大人たちは、国の宝である次の時代を担う子どもたちの命を守るというな基本的な教養を取り戻すために国(行政、メディアなど)は一丸になって取り組まなければならないと思います。やや感情的になってしまいましたが、最後まで読んでいただき有難うございます。