NPO法人日本小児肝臓研究所
理事長 藤澤知雄

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先日(2018.1.28)、第20回日本成人先天性心疾患学会に招かれて、シンポジウムFontan循環においける肝障害(Fontan associated liver disease: FALD)に関して、肝線維化が起こるメカニズムについて講演しました。今日はそのシンポジウムでお話しした、FALDでなぜ肝線維化が生じるか考えてみます。

一般に肝線維化の原因としては肝炎ウイルス感染、アルコール過剰摂取、メタボリック症候群、うっ血肝など多岐にわたっています。肝炎ウイルス感染による肝線維化のメカニズムは良く知られています。すなわち肝炎により肝内マクロファージ(リンパ球の一種)であるクッパ―細胞(kupffer細胞)が活性化すると、サイトカインの一種であるTGF-βやMMPなどのタンパク分解酵素が産生されます。TGF-βなどのサイトカインは類洞(肝内の毛細血管)の内皮細胞と肝細胞間のDisse(ディッセ)腔に存在する肝星細胞(Hepatic stella cell-HSC、伊東細胞、脂肪細胞とも呼ばれております)を活性化し、HSCを線維芽細胞へと形質転換させます。肝細胞と類洞の構造を図(1)に示しました。このようにして活性化された肝星細胞(HSC)は細胞外基質(マトリックス)であるコラーゲンを産生させます。また同時にMMPはコラーゲンの分解を促進させます。肝組織中のMMPの抑制因子が動員されないと線維産生が優位になると考えられます。少しむずかしい話になりましたが、結局のところ、この線維合成系と分解系の平衡が破たんすることにより肝線維化が活発になると考えられます。この肝線維化の要因として肝炎ウイルス感染以外には肝類洞内圧も原因になることが、最近の研究から分かってきました。たとえばSimonettoらは、マウスの剣状突起を数センチ切開し、下大静脈の70%程度を結紮し、うっ血肝のモデルマウスが作成しました。このモデルマウスを用いて詳細に検討すると、肝類洞の機械的な拡張により血液凝固系の亢進がみられ類洞内に血栓(Thrombosis)が発生し、血栓からファイブネクチンとフィブリルの集合体(FN+Fibrilアッセンブリ)が形成されます。一方、類洞内圧の増加により肝星細胞(HSC)の細胞内骨格からアクチンがレリースされ、肝星細胞の表面にインテグリンという接着因子が表出されます。これにFNとFibrilの集合体が接触することにより、細胞外つまり類洞に線維化(ファイブローシス)が発達することが知られるようになりました。つまり、FALDでは炎症がなくとも類洞内の血液のうっ滞(停滞)と星細胞(HSC)への機械的圧負荷により肝線維化が起こることが証明されたわけです(図2)。今後、このようなうっ血肝のモデルマウスを用いてこの方面の研究が飛躍的に伸びることが期待されます。

Fontan術は宿命的に中心静脈圧が増加します。したがって肝臓の毛細血管である類洞の血流の停滞と、Disse腔の肝星細胞(HSC)に圧負荷を与え、これにより類洞内に血栓を生じることが肝線維化の原因となるようです。今後、血栓形成を予防するためにワーファリンのみならず、新しく開発された経口抗凝固薬(Novel oral anticoagulant: NOAC)も使用して肝線維化を防ぐことも検討すべきと思います。

 

参考文献

Simonetto DA, Yang HY, Yin M, et al.:Chronic passive venous congestion drives hepatic fibrogenesis via sinusoidal thrombosis and mechanical forces.Hepatology. 2015 Feb;61(2):648-59