大阪急性期・総合医療センター
小児科 高野智子

病院の仕事は病院という大きなホールのショートケーキをみんなでどうやっておいしく完食するかであるという。そして、管理者は常にみんなの食べ具合を温かく見守りながらマネージメントする責務を負っていると乾先生は言われる(小児内科2016;48;96)。ここがとってもいい(いいね!)。食べることに早く食べる人もいれば遅い人もいる、たくさん食べる人もいれば少ない人もいる、好みの違いもある。それと同じように、仕事もスピーディーにやる人もいればゆっくりの人もいる、たくさん仕事をしたい人もいれば勤務時間内の仕事をよしとする人もいる、得意分野に違いもある。それでいいと思っていた、“不平等の平等“であると。しかし、世の中にはそれをよしとしない人もいることが管理者になってわかった。「子どもが小学生になっても当直しないのはどうして」、「外来で見る患者数が違うのはよろしくない」など、いろいろご意見を言われる立場になってみて少し考えが変ってきた。

私は常勤採用の内定していた女医さんから妊娠したと報告を受けた時に、「管理者としては困る、周りの人のモチベーションが下がるから非常勤で来てはどうですか」と言って、マタハラ女性部長と報道された。彼女が妊娠を希望しているといううわさは聞いていた。私としては勤務し始めてせめて皆となじんでから妊娠してくれたらなと思っていた。彼女から妊娠報告を受けた時、何人かのスタッフの顔が浮かんだ。赴任して当直はできない、できても当科のハードな当直をしてもらったら周りが心配、すぐに産休・育休となったらなんで同じ常勤なのと他のスタッフから不満が出るだろうと思った。このチームをまとめ、彼女も働く場を持つには非常勤がいいのではないかと思い返事した。しかし、それからの騒動は私の社会勉強となり、病院にも迷惑をかけた。

子持ち女医も働く場は持つべきであると思っている。私自身、新設医大の一期生で、働く女医が大学にはほとんどいなかった。小児科に入局するとき教授は女医をいらないと言っていたが、大学院へ行くからと(大学院も新設となるため入学者が必要であった)ごり押しで入局した。その後毎年女医の入局があり、教授も「女医さんの方が働くからいいね」などと言われるようになった。妊娠、夫の転勤で自分のキャリアは他人任せとなり、ようやく夫の職場が落ちついたとき、近くの大学小児科に仕事を紹介してほしいとお願いに行った。医局長から「子持ち女医はいらない」と言われた。それまでは母校の関連病院で月4-5回当直もし小児科医として働いてきたのに、母校を離れると評価もされず働くこともできなくなるのが悲しかった。小児科医をあきらめて基礎研究をしていたが、あきらめきれず再度教授にお願いに行った。そのとき、教授から「保育所のお迎えはあなたが行くの?子どもがいると休んだりして周りのスタッフに迷惑かけるから困るんだよね」と言われた。そして紹介されたのが、毎日外来、入院もとるような一人医長の小児科だった。入院患者さんがいるので休むこともできず、土日も病院に行った。やりたくても小児科医ができなかった、それがエネルギーとなって、病院を代わりながらも小児科医としてがむしゃらに働いてきた。女医の評価は昔に比べ上がったように思うが、子持ち女医はそうでもないと思う。

子育てと両立できるような働き方ができたらいい。みんなが子育てや介護があり、仕事との両立に苦労するなら、お互いさまと助け合いもできよう。でも、そうではない。そうなら、どういう理由であれ働き方が少ないなら、何か違いが必要であると思う。管理者は食べ方の少ない人ばかりでなく、たくさん食べる人も守らなければいけないと思う。大きなホールのショートケーキ、皆がどうおいしく完食できるか、簡単そうで簡単でない。これからも悩みながらショートケーキ作戦にかかわっていくことになるだろう。